睡眠時無呼吸症候群が体に与える悪影響を解説
- 2月12日
- 読了時間: 26分

毎日のいびきがひどい、朝起きても体が重く疲れが取れない、日中、会議中や運転中に強い眠気に襲われる――。もし、あなたやご家族にこのような症状があれば、それは単なる寝不足ではないかもしれません。
「たかがいびき」と軽く見過ごされがちな「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」は、放置すると高血圧や糖尿病、さらには心筋梗塞や脳卒中といった命に関わる重篤な合併症を引き起こす危険性があります。実際、SAS患者さんの約50%が高血圧を合併し、脳卒中発症リスクは約3倍にものぼると言われています。
この記事では、あなたの知らない間に進行するSASの恐ろしい悪影響を徹底解説。健康な毎日を取り戻すために、今すぐできる対策と適切な治療法についてご紹介します。
睡眠時無呼吸症候群が引き起こす日常の悪影響
「毎日のいびきがひどい」「朝起きても体が重く、疲れが取れない」「日中、会議中や運転中に強い眠気に襲われる」。もしご自身やご家族にこのような症状がある場合、それは単なる寝不足ではないかもしれません。睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、寝ている間に呼吸が止まったり浅くなったりを繰り返す病気です。この状態が毎晩続くことで、体は知らず知らずのうちにストレスにさらされ、日々のパフォーマンス低下だけでなく、深刻な健康問題へとつながる危険性があります。
「たかがいびき」と軽く考えられがちですが、良質な睡眠は心身の健康を維持するために不可欠です。私たち医師は、この病気が日々の生活にどのような影響を与えるのかを詳しく説明し、皆さんの健康を守るお手伝いをしたいと考えています。
慢性的な眠気と集中力・記憶力の低下
睡眠時無呼吸症候群の最も自覚しやすい症状の一つは、日中の強い眠気です。夜間に呼吸が何度も止まるたびに、脳は酸素不足を感知し、一時的に覚醒状態となります。これにより、深い睡眠段階に入ることができず、質の良い睡眠を十分に取ることができません。その結果、朝目覚めても「しっかり眠れた」という感覚がなく、一日中頭がぼーっとしたり、体がだるく感じたりします。
このような慢性的な睡眠不足は、脳の重要な機能に大きな影響を与えます。具体的には、集中力や記憶力の低下を招くことが知られています。仕事でいつもならしないようなミスが増えたり、新しい情報を覚えるのに苦労したりする経験はありませんか。会議中にうっかり居眠りをしてしまう、という話もよく耳にします。さらに、運転中に強い眠気に襲われることは、重大な交通事故につながるリスクを高めます。実際、睡眠不足は起床後の活動能力を低下させ、事故や怪我の増加につながることが複数の研究で指摘されています。日常生活の質(QOL)が著しく低下するだけでなく、生命の安全に関わるリスクもはらんでいるのです。
イライラや気分の落ち込みなど精神的な不調
睡眠時無呼吸症候群による質の悪い睡眠は、私たちの精神的な健康にも大きな影響を及ぼします。睡眠不足の状態が続くと、自律神経のバランスが崩れやすくなります。自律神経とは、体温調節や呼吸、心臓の働きなどを無意識のうちにコントロールしている神経です。このうち、体を活動させる「交感神経」が過剰に優位な状態が続くことで、常に体が緊張している状態になります。
その結果、些細なことにもイライラしやすくなったり、集中力が続かずに感情のコントロールが難しくなったりすることがあります。また、脳が十分に休まらないため、気分の落ち込みや無気力感を強く感じることも少なくありません。医学的な研究では、睡眠不足がうつ病や不安障害といった精神的な不調と深く関連していることが示されています。このような心の不調は、ご家族との関係や職場での人間関係にも影響を与え、社会生活において大きな負担となる可能性があります。単なる「気の持ちよう」ではなく、質の良い睡眠が心の健康を守るために非常に重要であると、私たち医師は考えています。
放置は危険!睡眠時無呼吸症候群が招く重篤な4つの合併症
夜間のいびきや呼吸の停止は、単なる睡眠の質の低下ではありません。知らない間に体の中で様々な悪影響が進行し、やがては命にかかわる重い病気を引き起こすことがあります。私たち医師は、皆さんにこの事実を知っていただき、ご自身の健康を守っていただきたいと強く願っています。睡眠時無呼吸症候群(SAS)を放置すると、どのような病気が起こりうるのか。ここでは、具体的な合併症と、そのリスクについて詳しく解説します。

心臓への負担:高血圧・不整脈・心筋梗塞のリスク増加
睡眠時無呼吸症候群は、心臓と血管に計り知れない負担をかけ続けます。寝ている間に呼吸が止まる「無呼吸」や呼吸が浅くなる「低呼吸」が繰り返されると、体内の酸素が一時的に不足する「間欠的低酸素(かんけつてきていさんそ)」状態に陥ります。この酸素不足に加えて、呼吸が止まるたびに胸の中の圧力(胸腔内圧:きょうくうないあつ)が大きく変動したり、脳が覚醒して睡眠が分断されたりします。
こうした状態が毎晩続くことで、私たちの体は常に非常事態と認識します。その結果、体を興奮状態にする「交感神経(こうかんしんけい)」という自律神経が過剰に活性化されてしまうのです。交感神経が活性化すると、血管が収縮し、血圧が常に高い状態となり、高血圧を引き起こします。既に高血圧の持病がある方も、さらに血圧が上がってしまうことがあります。実際に、睡眠時無呼吸症候群の患者さんの約50%が高血圧を合併していることが報告されています。特に血圧の薬を飲んでもなかなか下がらない「治療抵抗性高血圧」の患者さんでは、実に80%以上の方に睡眠時無呼吸症候群が隠れていることが明らかになっています。
さらに、睡眠中の血圧変動や酸素不足は、心臓そのものにも影響を与えます。心臓の筋肉が厚くなる「心臓肥大」や、脈が乱れる「不整脈(特に心房細動)」のリスクを高めることが知られています。また、このような状態は血液が固まりやすくなる原因となり、血管の中で血栓(けっせん:血の塊)ができやすくなります。この血栓が心臓の血管を詰まらせれば「心筋梗塞(しんきんこうそく)」、脳の血管を詰まらせれば「脳卒中(のうそっちゅう)」へとつながる危険性があるのです。
特に、女性の睡眠時無呼吸症候群は、これまで男性に比べて見過ごされがちでした。しかし、女性も男性と同様に心血管疾患のリスクを高める「忘れられた心血管リスク因子」であると認識され始めています。適切な治療である「持続陽圧呼吸(CPAP:シーパップ)療法」を行うことは、高血圧の改善に繋がり、心臓への負担を大きく軽減します。
脳への影響:脳卒中・認知症のリスク上昇
睡眠時無呼吸症候群は、心臓だけでなく脳にも深刻な悪影響を及ぼします。夜間の無呼吸によって繰り返される酸素不足や激しい血圧の変動は、脳の血管に大きなダメージを与え続けます。この状態は、体の中で炎症を引き起こしやすくなる「全身性炎症(ぜんしんせいえんしょう)」や、細胞を傷つける「酸化ストレス」を亢進させます。これにより、血管の内側の壁(血管内皮)が傷つき、血管の機能が損なわれる「血管内皮機能障害(けっかんないひきのうしょうがい)」が進行します。
血管内皮機能障害は、血管が硬く、狭くなる「動脈硬化(どうみゃくこうか)」を加速させる主要な要因です。動脈硬化が進むと、脳の血管が詰まる「脳梗塞(のうこうそく)」や、脳の血管が破れる「脳出血(のうしゅっけつ)」といった脳卒中の発症リスクが大幅に高まります。実際に、睡眠時無呼吸症候群の患者さんは、そうでない方に比べて脳卒中を発症するリスクが約3倍も高いことが報告されており、これは決して軽視できる数字ではありません。
さらに、脳への酸素供給が十分にされない状態が長く続くと、脳の細胞そのものがダメージを受け、集中力や記憶力の低下といった「認知機能障害(にんちきのうしょうがい)」を引き起こす可能性があります。近年では、睡眠時無呼吸症候群が将来的な「認知症(にんちしょう)」の発症リスクを高める可能性も指摘されており、脳の健康を維持するためにも早期の対策が非常に重要です。CPAP治療などの適切な治療を受けることで、脳血管疾患を合併した患者さんの予後(病気の経過や見通し)が改善し、5年後の死亡率が減少することも示されています。
糖尿病の悪化とインスリン抵抗性
睡眠時無呼吸症候群は、糖尿病の悪化や発症にも深く関わっています。寝ている間の無呼吸や低呼吸による「間欠的低酸素状態」は、体にとって大きなストレスとなります。このストレスは、血糖値を上げるホルモン(例:コルチゾール、カテコラミン)の分泌を促進します。この状態が毎晩繰り返されると、血糖値を下げる働きのある「インスリン」というホルモンが効きにくくなる「インスリン抵抗性(インスリンていこうせい)」が進んでしまうのです。
インスリン抵抗性が高まると、体は血糖値を下げようと、より多くのインスリンを分泌しようとします。しかし、膵臓(すいぞう)がその働きに追いつかなくなり、結果として血糖値が高い状態が続き、糖尿病を発症したり、すでに糖尿病を患っている方の血糖コントロールがさらに悪化したりします。習慣的にいびきをかく人は、そうでない人に比べて糖尿病の発症リスクが約2倍になるという研究結果もあります。
睡眠時無呼吸症候群の重症度が高いほど、糖尿病を合併する割合も高まる傾向にあるため、夜間の無呼吸は糖尿病治療の大きな妨げとなり得ます。糖尿病は、放置すると神経障害や腎臓病、失明など、全身に様々な合併症を引き起こす恐ろしい病気です。CPAP治療による糖代謝の改善効果については、これまでの研究で一定の成果が見られますが、その詳細なメカニズムや効果の大きさについては、さらなる検討が必要であるとされています。しかし、糖尿病の悪化を防ぎ、健康な血糖値を維持するためにも、睡眠時無呼吸症候群の診断と治療は非常に重要であると私たちは考えています。
その他のリスク:メタボリックシンドロームと腎臓病
睡眠時無呼吸症候群は、心臓、脳、糖尿病だけでなく、全身の健康にも悪影響を及ぼし、様々な病気を引き起こす可能性があります。その一つが「メタボリックシンドローム」です。メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪型肥満に加えて、「高血圧」「高血糖」「脂質異常症」のうち2つ以上を合併した状態を指します。睡眠時無呼吸症候群は、これらの要素すべてと深く関連していることが明らかになっています。中等症の睡眠時無呼吸症候群の患者さんの約半数に、メタボリックシンドロームが合併しているという報告もあります。
睡眠時無呼吸症候群と肥満は相互に悪影響を及ぼし合います。肥満が睡眠時無呼吸症候群を悪化させ、さらに睡眠時無呼吸症候群がメタボリックシンドロームのリスクを高めるという「悪循環」を生み出します。この負の連鎖を断ち切るためにも、睡眠時無呼吸症候群の治療は、メタボリックシンドロームの改善にも繋がる重要な一歩となります。
また、睡眠時無呼吸症候群によって引き起こされる高血圧や糖尿病が悪化すると、最終的に腎臓に大きな負担がかかり、「慢性腎臓病(まんせいじんぞうびょう)」を発症または悪化させるリスクも高まります。腎臓は体の老廃物をろ過する重要な臓器であり、その機能が低下すると全身の健康状態に影響を及ぼし、人工透析が必要になることもあります。
このように、睡眠時無呼吸症候群は複数の生活習慣病と密接に関わり、放置することで重篤な健康問題へとつながるため、早期の発見と適切な治療が不可欠です。私たちは、皆さんが健康で充実した日々を送るために、この病気への意識を高めることが重要だと考えています。
悪影響を断ち切る!睡眠時無呼吸症候群の検査と治療
「毎日のいびきがひどい」「寝ても疲れが取れない」「日中、眠くて仕方ない」。このようなお悩みは、単なる寝不足や疲労と片付けてしまいがちですが、それはもしかしたら「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」という病気のサインかもしれません。SASは、寝ている間に呼吸が一時的に止まったり、浅くなったりを繰り返す病気です。この状態が慢性的に続くと、日中の生活の質が低下するだけでなく、高血圧、糖尿病、心臓病、脳卒中といった、命に関わる重篤な病気を引き起こすリスクが高まります。
私たち医師は、皆さんがこの病気を正しく理解し、適切な検査と治療を始めることで、これらの悪影響を断ち切り、健康的な毎日を取り戻せるよう、全力でサポートしたいと考えています。決して一人で悩まず、一緒に解決の道を探しましょう。
いびきや日中の眠気、まずはセルフチェック
睡眠時無呼吸症候群の症状は、ご自身で自覚しにくいことがあります。多くの場合、ご家族やパートナーの方からの「いびきがひどいよ」「寝ている時に息が止まっているみたい」といった指摘で気づかれるケースがほとんどです。ご自身の睡眠に、以下のような気になる点はありませんか?
激しいいびき、そして途中で止まるいびき
寝ている間に、呼吸が止まっているかのように、いびきが急に静かになったり、不規則になったりすることが特徴です。
静かになった後に、大きな呼吸音やあえぎ声とともに呼吸が再開することもあります。
日中の耐え難い眠気
会議中や運転中、休憩時間など、本来なら眠るべきではない状況で、我慢できないほどの眠気に襲われることがあります。
これは、夜間に質の良い深い睡眠が十分に取れていない明らかな証拠です。
起床時の頭痛や口の渇き
睡眠中に酸素が不足したり、口呼吸になってしまったりすることで起こる症状です。
目覚めた時に「ぐっすり眠れた」という爽快感がない場合は要注意です。
倦怠感や集中力・記憶力の低下
夜間の眠りが浅いと、脳が十分に休息できません。
その結果、日中の活動に支障をきたし、仕事や学習の効率が低下します。
認知機能の低下は、ご自身のパフォーマンスだけでなく、交通事故などのリスクを高める原因にもなります。
最近の研究では、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の患者さんにおいて、脳波(EEG)から得られる睡眠微細構造(ごく短い時間単位での睡眠の質や安定性を示す指標)に変化が見られ、これが認知機能障害と関連している可能性が指摘されています。
もし一つでも当てはまる症状があれば、それは体からのSOSかもしれません。自己判断せずに、専門医への相談を検討してください。
専門医による検査と診断の流れ
「もしかしたら、睡眠時無呼吸症候群かも?」と感じたら、専門の医療機関で検査を受けて、正確な診断を得ることが大切です。私たち医師は、皆さんの症状を詳しくお伺いし、適切な検査を経て、一人ひとりに合った治療方針を提案します。
問診
まずは、ご自身の症状や生活習慣について、時間をかけて丁寧にお話を伺います。
いびきの状況、日中の眠気の程度、過去にかかった病気(既往歴)、服用中の薬など、できるだけ詳細な情報が診断の手がかりとなります。
ご家族やパートナーからの情報も、客観的な症状を把握する上で非常に重要です。
簡易検査(スクリーニング検査)
ご自宅で手軽に行える検査です。
小型の医療機器を装着して、睡眠中の呼吸の状態(鼻からの空気の流れ)、血中の酸素レベル、いびきの音などを測定します。
この検査では、①正常範囲内、②グレー、③睡眠時無呼吸症候群の診断、の3パターンに分類されます。③であればCPAP治療に移行出来ますが、②の結果になることも多いです。その場合、次の精密検査に移行します。
精密検査(ポリソムノグラフィー検査:PSG検査)
一般的には医療機関に一泊入院して行う、睡眠時無呼吸症候群の確定診断に不可欠な精密検査です。ただし、当院では、自宅でもこの検査を行って頂ける体制を有しています。
この検査では、脳波、眼球運動、あごの筋肉の動き、心電図、呼吸の気流、胸やお腹の動き、血中の酸素飽和度、いびきの音、足の動きなどを同時に測定します。
これにより、睡眠の質や呼吸が止まる回数と時間、それに伴う体への影響を、睡眠の専門家が正確に把握できます。
検査結果から、1時間あたりの無呼吸と低呼吸の合計回数を示す「無呼吸低呼吸指数(AHI)」という数値が算出されます。
山内基雄先生の論文では、このAHIが高いほど高血圧の発症リスクが増加することが指摘されており、診断基準だけでなく、治療の必要性を判断する上でも非常に重要な指標となります。
これらの検査結果に基づき、医師が睡眠時無呼吸症候群であるかどうか、またその重症度を診断し、患者さん一人ひとりに最適な治療法を提案します。
代表的な治療法:CPAP・マウスピース・外科手術
睡眠時無呼吸症候群の治療法は、病気のタイプや重症度、患者さんの体の状態によって異なります。当院で行える治療はCPAPのみであり、他の治療法をご希望の場合には、専門の医療機関をご紹介する事があります。
CPAP療法(シーパップ療法:経鼻的持続陽圧呼吸療法)
中等症から重症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群に対して、現在最も効果的な治療法として広く行われています。
仕組み:寝ている間に専用のマスクを装着し、そこから一定の圧力をかけた空気を送り込むことで、喉の奥の空気の通り道(気道)が塞がるのを防ぎます。
これにより、睡眠中の無呼吸がなくなり、質の良い睡眠がとれるようになります。
効果:日中の眠気や倦怠感といった症状の改善はもちろん、山内基雄先生の研究でも示されているように、高血圧の改善にも有用とされています。
費用と保険適用:毎月定期的な受診が必要で、医療保険が適用されます。
マスクの種類も複数あり、ご自身に合うものを選ぶことができます。もしマスクが合わない、寝苦しいと感じる場合は、我慢せずに遠慮なく医師に相談してください。
口腔内装置(マウスピース)
軽症から中等症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者さんに適用されることがあります。
仕組み:寝ている間に装着することで、下あごを少し前に突き出し、舌根(舌の付け根)が沈み込むのを防いで気道を広げます。
特徴:歯科で作成するため、ご自身の歯型に合わせたオーダーメイドのものが提供されます。
いびきの軽減にも効果が期待できます。
外科手術
アデノイドや扁桃腺の肥大、軟口蓋(口の奥にある柔らかい部分)のたるみなど、気道閉塞の原因がはっきりしている場合に検討されます。
種類:扁桃腺摘出術やアデノイド切除術、軟口蓋形成術など、原因となる部位に応じてさまざまな手術があります。
手術は、耳鼻咽喉科の専門医と連携して行われることが多いです。
これらの治療法は、単独で行われることもあれば、組み合わせて行われることもあります。私たち医師とよく相談し、ご自身の体の状態やライフスタイルに合わせた最適な治療法を見つけることが、症状改善への第一歩です。
治療で期待できる生活の質の向上と合併症の予防効果
睡眠時無呼吸症候群の治療を適切に継続することで、日中のつらい症状が改善されるだけでなく、長期的な健康リスクを大幅に減らすことが可能です。これは、単に「症状がなくなる」だけでなく、皆さんの人生全体の質を高めることに繋がります。
【生活の質の向上】
日中の眠気の改善
質の良い睡眠がとれるようになるため、日中の耐え難い眠気や慢性的な倦怠感が解消されます。
その結果、仕事や学習の効率が向上し、集中力が持続しやすくなります。
集中力・記憶力の回復
脳が十分に休息することで、集中力や記憶力が改善され、日常生活におけるパフォーマンスが高まります。
Beaudin AEらの研究でも、睡眠の微細構造の変化が認知機能障害の一因となる可能性が示されており、治療によってこれらの脳機能の改善が期待されます。
精神的な安定
睡眠不足によるイライラや気分の落ち込みといった精神的な不調も軽減され、より活動的で前向きな生活を送れるようになります。
交通事故のリスク低減
運転中の強い眠気は、重大な交通事故につながる危険性があります。
治療によって眠気が解消されれば、ご自身の安全だけでなく、周囲の安全も守ることができます。
【合併症の予防効果】
睡眠時無呼吸症候群を放置すると、様々な重篤な合併症を引き起こすことが知られています。しかし、治療を早期に開始し継続することで、これらのリスクを効果的に予防・改善することが可能です。
高血圧の改善
山内基雄先生の論文では、閉塞性睡眠時無呼吸症候群が高血圧の独立したリスク因子であり、CPAP治療によって血圧改善効果が認められるとされています。
実際に、睡眠時無呼吸症候群の患者さんの約50%が高血圧を合併しており、CPAP治療が高血圧の改善に非常に有用であることが多くの研究で示されています。
心血管疾患リスクの低減
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中の血圧変動や血液が固まりやすくなる状態を引き起こし、心臓に大きな負担をかけます。
治療により、不整脈(特に心房細動)、心臓の筋肉が厚くなる心臓肥大、心筋梗塞といった心臓病の発症リスクが減少します。
さらに、心不全患者さんの死亡率低下にもつながると報告されています。
脳卒中の予防
睡眠時無呼吸症候群の患者さんは、そうでない方に比べて脳卒中の発症リスクが約3倍高いとされています。
CPAP治療を行うことで、脳血管疾患を合併した患者さんの5年後の死亡率が明らかに減少することが報告されています。
糖尿病の改善
習慣的ないびきがある人は、そうでない人に比べて糖尿病のリスクが2倍になることが指摘されています。
睡眠時無呼吸症候群による間欠的な酸素不足の状態は、血糖値を下げる働きのあるインスリンが効きにくくなる「インスリン抵抗性」に関連すると言われています。
治療によって血糖コントロールが改善される可能性があります。ただし、CPAP治療による糖代謝改善効果については、その詳細なメカニズムや効果の大きさについて、さらなる検討が必要であると、山内基雄先生の論文でも述べられています。
メタボリックシンドロームの改善
中等症の睡眠時無呼吸症候群の患者さん、特に男性の約半数にメタボリックシンドロームの合併が見られることが知られています。
両者は相互に心血管疾患などのリスクを高め合うため、睡眠時無呼吸症候群の治療が、メタボリックシンドロームの改善にも役立つと考えられています。
治療を継続することで、身体的な健康だけでなく、精神的な安定と充実した生活を取り戻し、より豊かな人生を送ることが期待できます。
早期治療で防げる将来のリスクと医療機関選びのポイント
睡眠時無呼吸症候群は、単なるいびきや眠気の病気ではありません。治療せずに放置してしまうと、これまでに述べた高血圧、糖尿病、心臓病、脳卒中といった命に関わる病気のリスクを高めるだけでなく、突然死や認知症のリスクにも影響を与える可能性があります。特に、睡眠中の間欠的な酸素不足は脳へのダメージにもつながり、Beaudin AEらの研究でも示唆されているように、認知機能障害の原因の一つとなり得ます。そのため、気になる症状があれば、早期に診断を受けて適切な治療を開始することが、将来の健康を守る上で非常に重要です。
信頼できる医療機関を選ぶ際には、以下のポイントを参考にしてください。私たち医師は、皆さんが安心して治療を受けられる場所を見つけるために、これらの基準を重視しています。
検査体制が充実しているか
簡易検査だけでなく、より精密なポリソムノグラフィー検査(PSG検査)に対応しているかどうかも重要です。
また、検査結果を患者さんが理解できるよう、丁寧に説明してくれるクリニックを選びましょう。
通院しやすい立地と診療時間か
CPAP療法は継続的な通院が必要となるため、ご自身のライフスタイルに合わせて通いやすい場所にあるか、診療時間が合っているかなども確認しておくと良いでしょう。
これらの合併症を放置することは、脳卒中、心臓病、腎臓病など重大な病気のリスクを高めるため、専門医療機関での早期診断と適切な治療が推奨されます。ご自身の健康と大切なご家族のためにも、気になる症状がある場合は、ためらわずに専門医の診察を受けてみましょう。
睡眠時無呼吸症候群の合併症Q&A
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、単なるいびきや日中の眠気だけにとどまらず、全身の健康にさまざまな悪影響を及ぼします。放置すると、命に関わる重篤な合併症を引き起こす可能性があります。ここでは、皆さんがよく疑問に思われる合併症について、内科専門医の視点からQ&A形式で詳しく解説します。
Q1: 睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、なぜ高血圧を引き起こすのですか?
SAS患者さんの約半数が高血圧を合併していると言われており、これは睡眠中に体内で繰り返される、いくつかの要因が関係しています。まず、呼吸が一時的に止まることで、体内は深刻な酸素不足(間欠的低酸素状態)に陥ります。この酸素不足に加えて、呼吸が再開するたびに胸の中の圧力(胸腔内圧:きょうくうないあつ)が大きく変動します。
この状態が毎晩繰り返されると、私たちの体は常に危険な状態だと認識します。そのため、体を興奮状態にする自律神経である「交感神経(こうかんしんけい)」が必要以上に活発になってしまいます。交感神経が活性化すると、血管が収縮し、心臓に大きな負担がかかり、血圧が常に高い状態になってしまうのです。山内基雄先生の論文でも、SASは高血圧の独立したリスク因子であり、無呼吸低呼吸指数(AHI:一晩の睡眠中に1時間あたり何回、無呼吸や低呼吸が起きたかを示す数値)が高いほど高血圧発症リスクが増加すると指摘されています。
さらに、慢性的な睡眠不足も血管に炎症を引き起こし、血管が硬くなる「動脈硬化」を進行させます。結果として、血圧がさらに上昇しやすくなるのです。実際に、血圧の薬を服用してもなかなか下がらない「治療抵抗性高血圧」の患者さんの実に80%以上で、SASが合併していることが明らかになっています。持続陽圧呼吸(CPAP:シーパップ)療法による適切な治療は、血圧の改善にも非常に有効であることが報告されています。
Q2: SASが糖尿病を悪化させるのは本当ですか?
はい、本当です。睡眠時無呼吸症候群は、糖尿病の発症や悪化に深く関わっています。習慣的ないびきをかく方は、そうでない方に比べて糖尿病の発症リスクが約2倍になるという研究結果もあります。
SASによる夜間の「間欠的低酸素状態」は、体にとって大きなストレスとなり、血糖値を上げるホルモン(コルチゾールやカテコラミンなど)の分泌を促進します。このストレス状態が続くと、血糖値を下げる働きのある「インスリン」というホルモンが効きにくくなる「インスリン抵抗性(インスリンていこうせい)」が進んでしまいます。インスリン抵抗性が高まると、体は血糖値を正常に保つために、より多くのインスリンを分泌しようとしますが、やがて膵臓(すいぞう)が疲弊し、インスリンの分泌が追いつかなくなります。その結果、血糖値が高い状態が続き、糖尿病を発症したり、すでに糖尿病を患っている方の血糖コントロールがさらに悪化したりするのです。
SASの重症度が高いほど、糖尿病を合併する割合も高まる傾向にあります。CPAP治療による糖代謝の改善効果については、これまでの研究で一定の成果が見られますが、山内基雄先生の論文では、その詳細なメカニズムや効果の大きさについてはさらなる検討が必要であるとされています。しかし、糖尿病の悪化を防ぐためにも、SASの早期診断と治療は非常に重要だと考えられています。
Q3: SASは心臓や脳にどのような影響を与えるのでしょうか?
睡眠時無呼吸症候群は、心臓と脳にも深刻な影響を及ぼします。夜間の無呼吸や低呼吸によって繰り返される酸素不足や激しい血圧の変動は、全身の血管に大きなダメージを与え続けます。このダメージは、血管の炎症や「酸化ストレス」を亢進させ、血管が硬く、狭くなる「動脈硬化」を加速させてしまいます。
動脈硬化が進むと、心臓の血管が詰まる「心筋梗塞(しんきんこうそく)」や、脳の血管が詰まる「脳梗塞(のうこうそく)」、あるいは脳の血管が破れる「脳出血(のうしゅっけつ)」といった「脳卒中(のうそっちゅう)」の発症リスクが大幅に高まります。実際に、SASの患者さんは、そうでない方に比べて脳卒中を発症するリスクが約3倍も高いことが報告されています。さらに、心臓の拍動リズムが乱れる「不整脈(ふせいみゃく)」、特に「心房細動(しんぼうさいどう)」のリスクも上昇します。SASを合併した心不全患者さんの死亡率が増加するという報告もあり、CPAP治療によって、脳血管疾患を合併した患者さんの5年後の死亡率が明らかに減少することも示されています。
これまでの研究は主に男性患者を対象とすることが多かったため、女性のSASは「忘れられた心血管リスク因子」と表現されることもありました。しかし、最近の研究では、女性も男性と同様に心血管疾患のリスクを高めることが明らかになっています。性差を考慮した診断と治療が、女性患者さんの予後(病気の経過や見通し)改善のために非常に重要です。
Q4: SASは認知機能の低下やうつ病の原因にもなるのでしょうか?
はい、睡眠時無呼吸症候群は、脳の機能にも悪影響を及ぼし、認知機能の低下や精神的な不調を引き起こす可能性があります。夜間の無呼吸により脳は酸素不足を繰り返し、深い睡眠段階に入ることができません。この質の悪い睡眠状態が続くと、脳は十分に休息できず、エネルギー欠乏の状態に陥ります。
Beaudin AE先生らの研究では、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の患者さんにおいて、脳波(EEG)から得られる睡眠微細構造(ごく短い時間単位での睡眠の質や安定性を示す指標)に変化が見られ、これが認知機能障害の一因となる可能性が指摘されています。具体的には、集中力や記憶力、情報処理速度といった認知機能が低下しやすくなることが示されています。仕事でミスが増えたり、新しい情報を覚えにくくなったりといった経験がある場合、睡眠の質が影響しているのかもしれません。
また、慢性的な睡眠不足は、脳内の神経伝達物質のバランスを崩し、精神的な健康にも大きな影響を与えます。イライラしやすくなったり、気分の落ち込みや無気力感を強く感じたりすることが少なくありません。医学的な研究では、睡眠不足が「うつ病」や「不安障害」といった精神的な不調と深く関連していることが示されており、慢性不眠症もSASとうつ病の両方と関連すると言われています。心の健康を保つためにも、質の良い睡眠は不可欠であり、SASの治療は精神的な安定にも繋がります。
Q5: 睡眠時無呼吸症候群はメタボリックシンドロームやその他の病気と関係がありますか?
はい、睡眠時無呼吸症候群は「メタボリックシンドローム」と呼ばれる状態と深く関連しています。メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪型肥満に加えて、「高血圧」「高血糖」「脂質異常症」のうち2つ以上を合併した状態のことです。中等症のSAS患者さんの約半数に、メタボリックシンドロームが合併しているという報告もあります。
SASと肥満は、互いに悪影響を及ぼし合う関係にあります。肥満は首回りの脂肪を増やし気道を狭くするためSASを悪化させます。一方、SASも肥満を招くメカニズムがあります。夜間の無呼吸による睡眠不足は、食欲を調整するホルモンの分泌に影響を与え、食欲を増進させる「グレリン」が増え、満腹感を伝える「レプチン」が減少するため、過食につながりやすくなるのです。日中の眠気や倦怠感で運動不足になりやすいことも、体重増加の一因となります。この「負のスパイラル」を断ち切るためにも、SASの治療はメタボリックシンドロームの改善にも繋がる重要な一歩となります。
さらに、SASによって引き起こされる高血圧や糖尿病が悪化すると、最終的に腎臓に大きな負担がかかり、「慢性腎臓病(まんせいじんぞうびょう)」を発症したり悪化させたりするリスクも高まります。腎臓は体の老廃物をろ過する重要な臓器であり、その機能が低下すると人工透析が必要になることもあります。このように、SASは複数の生活習慣病と密接に関わり、放置することで重篤な健康問題へと繋がるため、早期の発見と適切な治療が不可欠です。

まとめ
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、単なるいびきや日中の眠気と思われがちですが、その悪影響は高血圧、糖尿病、心臓病、脳卒中など、命に関わる重篤な病気へと繋がることをご理解いただけたでしょうか。
夜間の無呼吸が繰り返されることで、体は常にストレスにさらされ、心身に大きな負担がかかっています。しかし、適切な検査と治療によって、これらの悪影響を断ち切り、健康で充実した毎日を取り戻すことが可能です。
もし、ご自身や大切なご家族に「いびきがひどい」「朝起きても疲れが取れない」「日中強い眠気がある」といった症状があれば、決して一人で悩まず、早期に専門の医療機関へご相談ください。
参考文献
山内 基雄. 睡眠時無呼吸症候群と生活習慣病:原因か結果か?
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