
脂質異常症(高脂血症)
Dyslipidemia
脂質異常症とは
脂質異常症とは、血液中の脂質(コレステロールや中性脂肪)の値が基準値よりも高い、または低い状態を指します。かつては「高脂血症」と呼ばれていましたが、現在は「脂質異常症」という名称が一般的になっています。

脂質の種類と基準値
LDL(悪玉)コレステロール
基準値
140mg/dL未満
異常値
140mg/dL以上
HDL(善玉)コレステロール
基準値
40mg/dL以上
異常値
40mg/dL未満
中性脂肪(トリグリセライド)
基準値
150mg/dL未満
異常値
150mg/dL以上
総コレステロール
基準値
220mg/dL未満
異常値
220mg/dL以上
脂質異常症の分類
脂質異常症は、以下のように分類されます。
高LDLコレステロール血症
LDLコレステロール値が基準より高い状態
低HDLコレステロール血症
HDLコレステロール値が基準より低い状態
高トリグリセライド血症
中性脂肪値が基準より高い状態
複合型脂質異常症
上記が複数組み合わさった状態
脂質異常症の原因
脂質 異常症の原因は大きく分けて「一次性(原発性)」と「二次性」に分類されます。
一次性脂質異常症
遺伝的な要因や生活習慣によって引き起こされるもので、全体の約90%を占めます。
遺伝的要因
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家族性高コレステロール血症
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家族性複合型高脂血症
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家族性高トリグリセライド血症
生活習慣要因
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高脂肪・高カロリー食の過剰摂取
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運動不足
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肥満
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過度の飲酒
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喫煙
二次性脂質異常症
何らかの疾患や薬剤の影響によって引き起こされるもので、全体の約10%を占めます。
関連する疾患
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糖尿病
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甲状腺機能低下症
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慢性腎臓病
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胆道閉塞性疾患
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ネフローゼ症候群
薬剤の影響
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ステロイド薬
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利尿薬(サイアザイド系)
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β遮断薬
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経口避妊薬
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免疫抑制剤
脂質異常症の症状
脂質異常症は「サイレントキラー(静かな殺し屋)」とも呼ばれ、初期段階では自覚症状がほとんどありません。しかし、長期間放置すると以下のような症状や合併症が現れることがあります。
直接的な症状(稀)
黄色腫(皮膚や腱にコレステロールが沈着する)
アキレス腱肥厚
眼瞼黄色腫(まぶたにできる黄色い腫れ)
角膜輪(角膜の周囲に白い輪ができる)
合併症による症状
脂質異常症は直接的な症状よりも、動脈硬化を促進することで以下のような合併症を引き起こします。
冠動脈疾患
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狭心症(胸痛、胸部圧迫感)
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心筋梗塞(激しい胸痛、冷や汗、吐き気)
脳血管疾患
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脳梗塞(突然の麻痺、言語障害、意識障害)
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一過性脳虚血発作(一時的な脳の血流障害)
末梢動脈疾患
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間欠性跛行(歩行時の足の痛み、だるさ)
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下肢の冷感、しびれ
脳血管疾患
-
脳梗塞(突然の麻痺、言語障害、意識障害)
-
一過性脳虚血発作(一時的な脳の血流障害)
その他の合併症
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大動脈瘤
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腎動脈狭窄
脂質異常症の検査
高血圧が長期間続くと、血管や臓器にダメージを与え、さまざまな合併症を引き起こす可能性があります。
基本的な血液検査
脂質異常症の診断で測定される主な項目は以下の通りです。
LDLコレステロール
動脈硬化を促進する「悪玉コレステロール」
HDL(善玉)コレステロール
動脈硬化を抑制する「善玉コレステロール」
中性脂肪(トリグリセライド)
エネルギー源として蓄えられる脂質
総コレステロール
血液中の全てのコレステロールの総量
non-HDLコレステロール
総コレステロールからHDLコレステロールを引いた値
検査時の注意点
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脂質検査は基本的に空腹時(10~12時間以上の絶食後)に行います
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特に中性脂肪は食事の影響を受けやすいため、正確な評価には空腹時採血が重要です
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アルコールは中性脂肪値に大きく影響するため、検査前日の飲酒は避けるべきです
その他の検査
リスク評価や合併症の有無を確認するために、以下のような検査が追加されることがあります。
動脈硬化の評価
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頸動脈エコー(頸動脈の内膜中膜複合体厚の測定)
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CAVI(心臓足首血管指数)
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ABI(足関節上腕血圧比)
心血管系の評価
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心電図
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心エコー
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冠動脈CT
その他の代謝異常の評価
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血糖値
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HbA1c(糖尿病の評価)
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肝機能検査
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腎機能検査
脂質異常症の治療
脂質異常症の治療は「生活習慣の改善」と「薬物療法」の二本柱で行われます。リスク因子(高血圧、糖尿病、喫煙など)や既存の心血管疾患の有無によって、治療目標値が個別に設定されます。
生活習慣の改善
脂質異常症の基本的な治療は生活習慣の改善から始まります。
食事療法
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総カロリーの適正化(肥満の是正)
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コレステロールの摂取制限(1日300mg以下)
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飽和脂肪酸の制限と不飽和脂肪酸の適正摂取
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食物繊維の摂取増加
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トランス脂肪酸の摂取制限
運動療法
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有酸素運動(ウォーキング、水泳など)を週3~5回、1回30分以上
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習慣的な身体活動の増加
その他の生活習慣改善
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禁煙
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適正飲酒(日本酒換算で1日1合程度まで)
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ストレス管理
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十分な睡眠
薬物療法
生活習慣の改善だけでは効果が不十分な場合や、高リスク患者には以下のような薬物療法が行われます。
スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)
主な作用
肝臓での糖新生を抑制
代表的な薬剤
ロスバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチンなど
フィブラート系薬剤
主な作用
効果:中性脂肪を30~50%低下、HDLコレステロールを5~15%上昇
代表的な薬剤
フェノフィブラート、ベザフィブラートなど
エゼチミブ(コレステロール吸収阻害薬)
主な作用
小腸からのコレステロール吸収を阻害する、LDLコレステロールを15~20%低下
イコサペント酸エチル(EPA製剤)
主な作用
中性脂肪を20~30%低下
PCSK9阻害薬
主な作用
注射薬、LDLコレステロールを50~70%低下させる
代表的な薬剤
エボロクマブ、アリロクマブなど
治療目標値
治療目標値は、患者の心血管リスクに応じて個別に設定されます。
二次予防(冠動脈疾患の既往あり)
LDLコレステロール目標値
70mg/dL未満
高リスク(糖尿病、慢性腎臓病、非心原性脳梗塞など)
LDLコレステロール目標値
100mg/dL未満
中リスク(高血圧、喫煙、家族歴などの危険因子あり)
LDLコレステロール目標値
120mg/dL未満
低リスク(危険因子なし)
LDLコレステロール目標値
140mg/dL未満
脂質異常 症の予防
脂質異常症を予防するためには、以下のような生活習慣が重要です。
生活習慣の改善
バランスの良い食事
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野菜、果物、全粒穀物を多く摂取
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魚(特に青魚)を週2回以上摂取
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飽和脂肪酸(肉の脂身、バター、チーズなど)の過剰摂取を避ける
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トランス脂肪酸(マーガリン、ショートニング、一部の加工食品)を制限
適切な脂質摂取
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オリーブオイル、キャノーラ油などの不飽和脂肪酸を適度に摂取
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大豆製品、ナッツ類を適量摂取
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コレステロールの多い食品(レバー、卵黄など)の過剰摂取を避ける
その他の食事の工夫
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食物繊維(水溶性)を多く含む食品(オートミール、海藻、きのこなど)を摂取
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適正な食事量とカロリー管理
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規則正しい食事時間
運動習慣の確立
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有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、サイクリング、水泳など)を定期的に行う
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1回30分以上、週に150分以上の運動を目標にする
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日常生活での身体活動量を増やす(階段の使用、徒歩での移動など)
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筋力トレーニングも併せて週2回以上行う
体重管理
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適正体重(BMI 18.5~24.9)の維持
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腹囲(内臓脂肪)の管理(男性85cm未満、女性90cm未満)
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急激なダイエットは避け、緩やかな減量を心がける
その他の生活習慣
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禁煙(喫煙は善玉コレステロールを低下させる)
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適正飲酒(日本酒なら1日1合程度)
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ストレスの適切な管理
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十分な睡眠の確保
定期的な健康診断
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40歳以上は年1回の健診で脂質検査を受ける
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家族に脂質異常症や心血管疾患がある場合は若年からの検査も重要
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異常値を指摘された場合は医師の指示に従い、適切に管理する
