生活習慣の改善は高血圧に本当に有用?
- HEIWA SOTOMURA

- 2 日前
- 読了時間: 24分
「忙しい人向け|1分要約スライド」
「高血圧」という言葉に、漠然とした不安や、「本当に生活習慣の改善で変わるのか?」という疑問をお持ちではありませんか?「サイレントキラー」とも呼ばれる高血圧は、自覚症状がなくても体内で着実に血管を傷つけ、放置すれば脳卒中や心臓病など、将来の生活を脅かす重大な合併症を引き起こす危険性があります。しかし、ご自身の血圧と正面から向き合い、適切な対策を講じることで、多くの方が健康な生活を長く維持できます。
実は、高血圧の予防や改善において、日々の生活習慣を見直すことは、薬物療法と同じくらい、いや、それ以上に大切な「土台」となる力を持っています。アメリカ心臓病学会(ACC)とアメリカ心臓協会(AHA)のガイドラインでも、生活習慣の改善は重要な柱として強く推奨されており、科学的なエビデンスも豊富です。この記事では、高血圧の基本から、生活習慣改善が持つ驚くべき力、そして具体的な方法までを詳しく解説。健康を守るための一歩をサポートします。
高血圧の基本と生活習慣改善が必要な理由
「高血圧」という言葉に、漠然とした不安を感じる方は少なくないでしょう。しかし、ご自身の血圧と正面から向き合い、適切な対策を講じることで、多くの方が健康な生活を長く維持できます。血圧が高い状態を放置すると、自覚症状がなくても体の中で着実に血管へのダメージが進み、やがては重大な病気を引き起こす可能性もあるのです。まさに「サイレントキラー(静かなる殺人者)」と呼ばれる所以です。毎日の生活習慣を見直すことは、高血圧の改善において非常に大切な一歩となります。ご自身の健康を守り、将来も生き生きと過ごすために、高血圧の基本的な知識と生活習慣改善が持つ力について、一緒に深く理解していきましょう。

高血圧とは?診断基準と合併症のリスク
高血圧とは、心臓から全身に送り出される血液が、血管の壁に必要以上に強い力で押し付けられる状態が慢性的に続く病気です。血圧の測定値は、心臓が収縮して血液を送り出す際の「上の血圧(収縮期血圧)」と、心臓が拡張して血液が戻るときの「下の血圧(拡張期血圧)」の2つの数値で表されます。
一般的に、診察室で測定した血圧が「上の血圧が140mmHg以上」または「下の血圧が90mmHg以上」の場合に高血圧と診断されます。ご自宅で測定する血圧は、診察室での測定値よりも少し低い基準が用いられ、「上の血圧が135mmHg以上」または「下の血圧が85mmHg以上」が高血圧の目安とされています。このような診断基準は、日本高血圧学会のガイドラインだけでなく、アメリカ心臓病学会(ACC)やアメリカ心臓協会(AHA)が中心となって作成した国際的なガイドラインにおいても、高血圧を早期に発見し、適切な管理を行うための重要な指標として示されています。
高血圧を放置すると、全身の血管に持続的な負担がかかり続け、少しずつ血管が傷つき、硬くもろくなっていきます。動脈硬化が進むと、将来的に次のような深刻な合併症を引き起こすリスクが著しく高まります。
脳卒中
脳の血管が詰まる「脳梗塞」や、血管が破れる「脳出血」などがあります。
手足の麻痺や言語障害、意識障害などを引き起こし、生活に大きな影響を及ぼす可能性があります。
心臓病
心臓を栄養する冠動脈が狭くなる「狭心症」や、詰まる「心筋梗塞」などがあります。
胸の痛み、息切れ、不整脈などが起こり、最悪の場合は命に関わることもあります。
慢性腎臓病
腎臓の細い血管が傷つき、機能が徐々に低下していく病気です。
老廃物が体内に蓄積し、むくみやだるさなどの症状が現れ、進行すると透析が必要になることもあります。
眼底出血
目の奥にある網膜の血管が破れたり詰まったりする病気です。
視力低下や視野障害を引き起こし、失明に至る可能性もあります。
これらの合併症は、発症してしまうと元の状態に戻すことが難しい場合が多く、ご自身の生活の質を大きく損なう可能性があります。そのため、自覚症状がない段階から血圧を適切に管理することが、ご自身の未来の健康を守る上で極めて重要です。
なぜ高血圧になる?主な原因と発症メカニズム
高血圧になる原因は決して一つではありません。多くの場合、複数の要因が複雑に絡み合い、長い時間をかけて血圧が上昇していくと考えられています。
高血圧のほとんどは、「本態性高血圧」と呼ばれています。これは、特定の病気が原因で起こる高血圧(二次性高血圧)とは異なり、生活習慣や生まれ持った体質が大きく影響して発症するものです。主な原因となる生活習慣には、以下のようなものが挙げられます。
塩分の摂りすぎ
食事から過剰な塩分を摂取すると、体内の塩分濃度を薄めようとして血液中の水分量が増加します。
血液量が増えると、血管にかかる圧力が必然的に高くなり、血圧が上昇します。
肥満
体重が増加すると、全身に血液を送るために心臓がより多くの仕事をしなければなりません。
また、肥満はインスリン抵抗性や炎症を引き起こし、血管の機能にも悪影響を与え、血圧が上昇しやすくなります。
運動不足
運動不足は肥満につながるだけでなく、血管のしなやかさを失わせ、硬くする原因にもなります。
運動には血管を拡張させ、血圧を安定させる効果があるため、不足するとその恩恵が受けられません。
喫煙 * タバコに含まれるニコチンは、交感神経を刺激して血管を収縮させ、血圧を一時的に上昇させます。
また、タバコの有害物質は血管の内壁を傷つけ、動脈硬化を加速させる最大の原因の一つです。
過度な飲酒
アルコールの過剰摂取は、直接的に血圧を上げる作用があります。
毎日多量の飲酒を続けると、血圧が慢性的に高くなるリスクが高まります。
ストレス
強いストレスを感じると、体内でアドレナリンなどの血圧を上げるホルモンが分泌されます。
ストレスが長期的に続くと、血管が収縮した状態が続き、高血圧を招きやすくなります。
遺伝的要因
ご家族に高血圧の方がいる場合、ご自身も高血圧になりやすい体質を受け継ぐことがあります。
しかし、これはあくまで「なりやすい」という体質であり、日々の生活習慣を整えることで発症を予防したり、進行を遅らせたりすることが十分に可能です。
これらの要因が重なり合うことで、血管が硬くなったり、血液の量が過剰になったり、心臓がより強い力で血液を送り出したりするようになり、血圧が常に高い状態へとつながっていくのです。
薬に頼る前に知るべき!生活習慣改善が持つ力
高血圧と診断された際、「すぐに薬を飲まなければならない」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、薬物療法を開始する前に、あるいは薬物療法と並行して、生活習慣の改善が非常に重要であることをぜひ知っておいていただきたいです。生活習慣の改善は、高血圧の治療において、薬と同じくらい、いや、それ以上に大切な「土台」となる力を持っています。
アメリカ心臓病学会(ACC)とアメリカ心臓協会(AHA)のガイドラインでも、高血圧の予防、検出、評価、そして管理において、減塩、食事療法、運動療法といった生活習慣の改善が、薬物療法と並ぶ重要な柱として強く推奨されています。これは、生活習慣の改善が、高血圧による心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中など)のリスクを低減するための、最新のエビデンスに基づいた推奨事項だからです。
具体的な生活習慣の改善は、以下のような点で血圧に良い影響をもたらします。
減塩
体内の余分なナトリウムと水分が排出され、血液量が適正に保たれることで血圧が下がります。
日本人の食生活では塩分を過剰に摂取しがちですので、意識的な減塩は特に重要です。
適度な運動
運動は血管の内皮機能を改善し、血管をしなやかに保つ効果があります。
心臓の働きが効率的になることで、血圧が安定しやすくなります。
また、運動は肥満の解消にもつながり、多方面から血圧に良い影響を与えます。
体重管理
適正体重を維持することは、心臓や血管にかかる負担を大幅に減らします。
体重が減るだけでも、血圧が低下する効果が期待できます。
禁煙
喫煙による血管収縮作用や動脈硬化の促進がなくなることで、血管へのダメージが減り、血圧が安定します。
禁煙は高血圧だけでなく、あらゆる病気のリスクを大幅に減らすことができます。
節酒
アルコールの摂取量を適切に保つことで、アルコールによる一時的および慢性的な血圧上昇作用を抑えることができます。
これらの生活習慣の改善を粘り強く続けることで、薬の量を減らせる可能性や、場合によっては薬なしで血圧を良好にコントロールできる可能性も出てきます。もちろん、高血圧の程度や状態は患者さん一人ひとり異なりますので、すべての方に当てはまるわけではありませんが、まずはご自身の力で血圧を良い状態に保つ努力をしてみることは、将来の健康を守る上で非常に価値のあることなのです。当院では、無理なく続けられる方法を一緒に考え、皆さまがご自身のペースで高血圧対策に取り組めるよう、全力でサポートいたします。
高血圧に対する食事•運動療法のエビデンス
「高血圧と診断されたけれど、食事や運動で本当に血圧は改善するの?」と疑問に感じる方は少なくありません。忙しい日々の中で生活習慣を見直すことは、簡単なことではないと感じる方もいらっしゃるでしょう。しかし、ご安心ください。これまでの多くの科学的な研究から、食事や運動の工夫が高血圧の改善にとても大切な役割を果たすことが明確に示されています。このセクションでは、具体的なエビデンスに基づき、日々の生活習慣が血圧にどのように影響するのかを、医師の視点から詳しく解説します。
減塩を中心とした食事療法で本当に血圧は下がるの?エビデンスを解説
高血圧対策の基本として「減塩」がよく挙げられます。塩分、特にナトリウムを摂りすぎると、体内の水分量が増え、血管に負担がかかり血圧が上がりやすくなるため、減塩は非常に大切です。実際に、多くの研究で減塩を中心とした食事療法が高血圧の改善に有効であることが示されています。
しかし、減塩の効果はすべての人に一律に現れるわけではありません。人の体質には「食塩感受性(しょくえんかんじゅせい)」という個人差があります。食塩感受性が高い方は、塩分摂取量によって血圧が大きく変動しやすい体質であり、減塩による血圧低下効果も期待しやすい傾向にあります。一方で、食塩感受性が低い方は、減塩だけでは血圧への影響が限定的であることも知られています。
さらに、過度な減塩には注意が必要です。極端な減塩が、かえって血圧を上昇させたり、体内の他のバランスを崩す可能性も指摘されているのです。例えば、ある研究では、過度な減塩が血清コレステロール値を上昇させたり、心筋梗塞のリスクを高めたりする可能性が示唆されたケースもあります。また、厳しすぎる減塩が、長期的な健康リスクにつながる可能性も指摘されていますので、ご自身の体質や状況に合わせて慎重に取り組むことが重要です。
減塩と同時に意識したいのが、カリウムの摂取です。カリウムは体内の余分なナトリウムを排出するのを助け、血圧を下げる効果が期待できます。実際に、生活習慣病のリスクが高い方々を対象とした研究では、食事習慣の改善によって尿中のナトリウムとカリウムの比率(尿中Na/K比)が減少したことが報告されています。この尿中Na/K比の減少は、塩分摂取量が減り、同時にカリウム摂取量が増えたこと、つまり減塩とカリウム摂取のバランスが良くなったことを示しています。
このような食習慣の改善をサポートするためには、具体的な情報提供が鍵となります。前述の研究では、教育的なビデオを視聴することが食習慣の改善に最も効果的な要因の一つであったと示唆されています。ただ漠然と減塩を意識するだけでなく、正しい知識を得て、それを実践するための具体的な方法を知ることが大切です。
美味しく減塩を続けるためには、いくつかの工夫があります。
だしをしっかり活用する
昆布やかつお節、きのこなどから丁寧にとっただしは、料理に深い旨味を与えます。
塩分を控えめにしても満足感が得られやすくなります。
香辛料やハーブを使う
コショウ、唐辛子、カレー粉、パセリ、バジルなどを活用し、風味豊かな食事を楽しみましょう。
レモンや酢などの酸味を利用する
酸味は味覚に刺激を与え、塩味が少なくても料理を美味しく感じさせます。
カリウムが豊富な食材を取り入れる
野菜や果物、海藻類、きのこ類はカリウムが豊富です。体内の余分な塩分排出を助け、減塩効果を高めます。
当院では、患者さん一人ひとりの体質や食生活を丁寧に評価し、闇雲な減塩ではなく、ご自身に合った適切な減塩方法を一緒に考えていきます。
塩分だけじゃない!カリウム摂取で美味しく減塩する食事術
高血圧対策で減塩は欠かせませんが、ただ塩分を減らすだけでは、食事が物足りなく感じてしまうかもしれませんね。美味しく減塩を続けるためには、カリウムを積極的に摂取する食事術がおすすめです。
カリウムは、体の中にある余分な塩分、特に「ナトリウム」という成分を体の外へ出すのを助ける働きがあります。体内のナトリウムが減ると、血液中の水分量も適正に保たれやすくなり、その結果、血圧を下げる効果が期待できるのです。
※なおカリウムを取りすぎると高カリウム血症を生じるリスクもあるため、バランス良く摂取する事が大切です。
カリウムを多く含む食品には、以下のようなものがあります。
野菜
ほうれん草、ブロッコリー、トマト、ジャガイモなど、色の濃い野菜や根菜に豊富です。
果物
バナナ、りんご、みかんなど、多くの果物に含まれています。
海藻
わかめ、ひじき、昆布など、ミネラルが豊富な海藻類もおすすめです。
豆類
大豆、納豆、豆腐など、大豆製品にもカリウムが多く含まれています。
これらの食品を日々の食事に意識的に取り入れることで、美味しく栄養バランスも整えながら、減塩を進めることができます。
また、調理の工夫も大切です。
だしをしっかり取る
昆布や鰹節で丁寧にとっただしは、料理に深い旨味を与え、塩分を控えめにしても満足感が得られます。
レモンや酢などの酸味を活用する
酸味は味覚に刺激を与え、塩味が少なくても料理を美味しく感じさせます。
しょうがやにんにく、ハーブなどの香辛料で風味を出す
塩分以外の香りで風味豊かに仕上げることで、薄味でも満足できる工夫をしましょう。
加工食品や外食が多い方は、成分表示をチェックしたり、お店で薄味のメニューを選んだりすることも有効な手段です。毎日の少しの工夫が、血圧管理につながります。
運動療法のエビデンス
運動療法も、食事療法と同じく高血圧の改善に欠かせない要素です。定期的な運動は、血圧を下げるだけでなく、心臓や血管の健康を保ち、糖尿病や脂質異常症などの他の生活習慣病の予防にもつながります。
運動が高血圧に良いとされる具体的なメカニズムは、多岐にわたります。
血管の柔軟性が向上する
運動によって血管の内側の細胞が活性化され、血管を広げる物質の分泌が促されます。
これにより血管がしなやかになり、血圧が下がると考えられています。
体重が管理される
適度な運動は、体重を減らす手助けとなります。
肥満は高血圧の大きな原因の一つですので、体重が減ることで血圧も改善しやすくなります。
自律神経のバランスが整う
運動は、ストレスを和らげ、心臓の働きを調整する自律神経のバランスを整える効果があります。
リラックス効果によって、過剰な血管の収縮が抑えられ、血圧が安定しやすくなります。
血圧を下げる物質が増加する
運動をすると、プロスタグランディンE、タウリン、ドーパミンといった、血圧を下げる働きを持つ天然の物質の生産が活発になります。
これらの物質は、血管を広げたり、体内の余分な水分や塩分を尿として体の外に出すことを促したりすることで、血圧の低下につながります。
血圧を上げる物質が抑制される
運動は、カテコラミンや内因性ジギタリス様物質といった、血圧を上げる働きを持つ物質の生産を抑える効果も持っています。
高血圧の方におすすめなのは、「有酸素運動」です。具体的には、ウォーキング、軽いジョギング、水中運動、サイクリング、ラジオ体操など、全身を使う運動が良いでしょう。運動の強度としては、軽く汗ばむ程度で、隣の人と会話ができるくらいの「ややきつい」と感じる強さが目安です。これは「ニコニコペース」とも呼ばれ、降圧効果が証明されています。次の項目ではこの「ニコニコペース」運動についてご紹介させて頂きます。
「ニコニコペース」運動とは?効果的な運動のコツ
「先生、どのくらいの運動が良いんですか?」というご質問をよくいただきます。高血圧の改善に効果的な運動として、福岡大学の清永明教授が提唱する「ニコニコペース」という考え方があります。これは、息が少し弾むけれど、笑顔で会話ができるくらいの、「ちょっと楽だと感じる程度の軽い運動」を指します。
このニコニコペースの運動は、心臓や血管に過度な負担をかけることなく、高血圧の予防や治療に役立つことが分かっています。実際に、このペースでの運動を10週間続けた研究では、上の血圧(収縮期血圧)が7~20mmHg、下の血圧(拡張期血圧)が5~10mmHg低下したという有意な降圧効果が確認されています。効果が実感できるまでには、通常1~2ヶ月ほどかかりますので、焦らず続けることが大切です。
では、ご自身に合った「ニコニコペース」は、どのように見つけたら良いのでしょうか?
会話ができるかどうかで判断する
運動中に隣の人と普通に会話ができるくらいの余裕があるかどうかが、一番簡単な判断基準です。
息切れがひどくて話せないようなら、それはペースが速すぎるサインですので、少しペースを落としましょう。
年齢から推定する目標脈拍数を確認する
大まかな目安として、目標脈拍数は「{138-(ご自身の年齢)/2-10}/4」という計算式で求めることができます。
例えば、60歳の方であれば「{138-30-10}/4 = 98/4 = 24.5」となり、運動中の脈拍数が1分間に約98拍程度が目安となります。
運動を中断してすぐに脈拍を測り、この目標脈拍数に近いかどうかを確認してみましょう。
このように、無理のない「ニコニコペース」を意識することで、楽しく安全に運動を継続し、血圧の改善を目指すことができます。最初は無理せず、心地よいと感じる範囲から始めてみましょう。
薬物療法はどんな人に有効?
高血圧の治療は、まず生活習慣の改善から始めることが一般的です。しかし、生活習慣を真面目に改善しても目標の血圧に達しない場合や、高血圧の程度が重い場合、あるいはすでに合併症のリスクが高い場合には、薬物療法が必要となります。薬物療法は、血圧を目標値まで下げることで、将来の脳卒中や心筋梗塞、腎臓病といった重篤な合併症を防ぐために非常に重要な役割を果たします。
薬物療法が必要となる主なケースとしては、次のような状況が挙げられます。
血圧が非常に高い場合
例えば、診察室で測定した血圧が上の血圧140mmHg以上、または下の血圧90mmHg以上が続く場合、特に高い数値が続くときには、早期に薬物療法を検討することがあります。
ご自宅で測定した血圧が上の血圧135mmHg以上、または下の血圧85mmHg以上が続く場合も、注意が必要です。
生活習慣を改善しても目標血圧に届かない場合
数ヶ月間、食事や運動の改善を粘り強く取り組んでも、なかなか血圧が下がらないときには、薬の力を借りることが大切です。
他の病気を合併している場合
糖尿病や慢性腎臓病、心筋梗塞の既往など、特定の病気をお持ちの方は、高血圧による合併症のリスクがさらに高まります。
そのため、比較的早い段階から薬物療法を始めることがあります。
降圧剤には、血管を広げる薬、心臓の働きを穏やかにする薬、体内の余分な水分や塩分を尿として排出する薬など、いくつかの種類があります。患者さんの体の状態や他の病気の有無、ライフスタイルなどを考慮して、医師が一人ひとりに合った薬を選んでいきます。薬を飲み始めることに抵抗を感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、薬はあくまで血圧を良好にコントロールするための有効な手段の一つです。生活習慣の改善と薬物療法を組み合わせることで、より効果的に血圧を管理し、健康な毎日を送ることができるようになります。
自宅での血圧測定の正しい方法と記録のコツ
高血圧の治療において、ご自宅で血圧を測り、その値を記録することは非常に重要です。クリニックで測る血圧だけでなく、日々の生活の中での血圧を知ることで、医師はより正確に患者さんの血圧の状態を把握し、適切な治療方針を立てることができます。また、ご自身で血圧の変化を実感することは、生活習慣改善のモチベーションにもつながります。
ここでは、ご自宅での血圧測定の正しい方法と記録のコツをご紹介します。
【正しい血圧測定の方法】
時間帯を決める
毎日決まった時間(例:朝起きてから1時間以内、就寝前)に測定しましょう。
特に朝の測定は、その日の血圧の状態を知る上で大切です。
安静にする
測定前には、5分程度椅子に座って安静にしてください。
喫煙、飲酒、カフェイン摂取、入浴、運動の直後は避けましょう。
姿勢を正す
椅子に座り、背筋を伸ばし、両足を床につけてリラックスします。
腕帯(カフ)を巻く腕(通常は利き腕でない方)は、心臓と同じ高さになるように机などに置きます。
測定回数
各測定時間帯に、少なくとも2回測定し、その平均値を記録しましょう。
腕帯(カフ)の巻き方
上腕に合ったサイズのカフを選び、肌に直接巻きつけます。
きつすぎず、ゆるすぎないようにしっかりと巻きましょう。
【記録のコツ】
血圧手帳やアプリを活用する
市販の血圧手帳や、スマートフォンのアプリを利用して、測定値を記録しましょう。
記載項目を充実させる
測定値(最高血圧、最低血圧)、脈拍だけでなく、測定した日付と時刻も記入します。
服薬の有無、その日の体調(気分、睡眠不足、頭痛など)も書き添えると、より詳細な情報となります。
医師と共有する
記録した血圧データは、診察時に必ず医師に見せてください。
血圧の傾向や薬の効果を医師が判断する上で、非常に貴重な情報となります。
正確な血圧測定と丁寧な記録は、ご自身の高血圧と向き合い、より良い治療へとつなげるための大切な習慣です。焦らず、毎日続けることを目標にしてみてください。
高血圧と食事•運動療法Q&A
高血圧と診断され、「本当に食事や運動で血圧は改善するの?」と疑問に感じる方は少なくありません。忙しい日々の中で生活習慣を見直すことは、簡単ではないと感じる方もいらっしゃるでしょう。しかし、多くの科学的な研究によって、食事や運動の工夫が高血圧の改善にとても大切な役割を果たすことが明確に示されています。ここでは、患者さんがよく抱く疑問に、医師の視点から具体的にお答えしていきます。

Q1: 減塩って本当に全員に効果があるのでしょうか?
A1: すべての皆さんに一律に効果があるとは限りません。
食塩の摂取量と血圧の関係は、科学的にまだ完全に証明されたものではなく、人によって個人差が大きいことが分かっています。特に「食塩感受性」といって、塩分の摂取によって血圧が上がりやすい体質の方には 減塩が有効ですが、そうでない方では減塩しても血圧があまり変わらないこともあります。
実は、過度な減塩がかえって健康に良くない影響を与える可能性も指摘されています。
例えば、極端な減塩が血清コレステロール値を上昇させたり、心筋梗塞のリスクを高めたりする可能性が示唆された研究もあります。大規模な国際疫学調査「INTERSALTスタディ」でも、食塩摂取量と高血圧の発症率の間に強い相関は確認されておらず、その結果と解釈を巡っては専門家間で論争が続いているのが現状です。
また、高血圧の発症には遺伝的な要因も大きく関係していることが分かっています。もし、ご家族に高血圧の方がいる場合は、ご自身の体質も考慮し、医師と相談しながら慎重に減塩に取り組むことが重要です。
減塩と同時にカリウム摂取を意識しましょう。カリウムは体内の余分なナトリウムを排出するのを助け、血圧を下げる効果が期待できます。尿中のナトリウムとカリウムの比率(Na/K比)が改善したという研究結果もあり、塩分摂取量を減らしつつカリウムを増やすことのバランスが大切です。
当院では、患者さん一人ひとりの体質や食生活を丁寧に評価し、闇雲な減塩ではなく、ご自身に合った適切な減塩方法を一緒に考えていきます。
Q2: どのような運動が高血圧に良いとされていますか?
A2: 高血圧の改善には、体に大きな負担をかけず、継続しやすい「軽強度で長時間の運動」が有効です。特に「ニコニコペース」と呼ばれる運動が推奨されます。これは、息が少し弾むけれど、笑顔で会話ができるくらいの、「ちょっと楽だと感じる程度の軽い運動」を指します。科学的には、最大酸素摂取量の50%(50%Vo2max)や乳酸閾値に相当する軽強度で、精神的・身体的に余裕を持って実施できる運動とされており、その安全性と有効性が確立されています。
具体的には、ウォーキング、軽いジョギング、水泳、サイクリング、ラジオ体操など、全身を使うリズミカルな有酸素運動が良いでしょう。運動の頻度や継続時間としては、週に3~5回、1回あたり30分以上行うことが理想的です。合計で週に140分以上、可能であれば180分以上の運動を2〜3ヶ月間続けることを目標にしましょう。このペースでの運動を10週間続けた研究では、上の血圧(収縮期血圧)が7~20mmHg、下の血圧(拡張期血圧)が5~10mmHg低下したという有意な降圧効果が確認されています。
運動による降圧のメカニズムは多岐にわたります。
血管拡張作用と利尿作用の促進
運動をすると、体内でプロスタグランディンE、タウリン、ドーパミンといった、「血圧を下げる働きを持つ天然の物質」の生産が活発になります。これらの物質は、血管を広げたり、体内の余分な水分や塩分を尿として体の外に出したりすることで、血圧の低下につながります。
昇圧物質の抑制
また、運動は、カテコラミンや内因性ジギタリス様物質といった、「血圧を上げる働きを持つ物質」の生産を抑える効果も持っています。血圧を上げる原因となる物質が減ることで、血圧の上昇が抑えられます。
特に、拡張期血圧が105mmHg未満の方、血管内血液量が多い方、低レニン性高血圧症の方などでは、運動による降圧効果が著明に認められやすい傾向があります。アメリカ心臓病学会(ACC)とアメリカ心臓協会(AHA)のガイドラインでも、運動療法は高血圧管理の重要な柱として強く推奨されています。
Q3: 減塩や運動の効果はいつ頃から実感できますか?
A3: 生活習慣の改善による血圧への良い影響は、すぐには現れないこともあります。特に運動による降圧効果は、一般的に1ヶ月から2ヶ月ほど継続して初めて実感できることが多いです。減塩についても、体質や元の塩分摂取量にもよりますが、数週間から数ヶ月で徐々に変化が見られることが多いでしょう。効果が出始めるまでには少し時間がかかりますが、焦らず継続することが非常に大切です。長期的に続けることで、血圧の安定だけでなく、心臓や血管の健康を保ち、糖尿病や脂質異常症などの他の生活習慣病の予防にもつながります。
Q4: 忙しくて運動する時間がないのですが、どうすれば良いですか?
A4: 忙しい毎日の中で運動時間を確保するのは難しいと感じる方もいらっしゃるでしょう。しかし、高血圧改善のための運動は、何も特別なスポーツジムに通う必要はありません。大切なのは、無理なく継続できる習慣を作ることです。
細切れの時間を利用する
30分まとめて運動する時間がなくても、10分を2〜3回に分けて行うだけでも効果はあります。例えば、朝の通勤で一駅分歩く、昼休みに散歩をする、寝る前に軽いストレッチをするなど、隙間時間を有効活用してみましょう。
日常生活に運動を取り入れる
エレベーターやエスカレーターを使わずに階段を使う、テレビを見ながら足踏みをする、買い物の際に少し遠回りをして歩くなど、意識的に体を動かす機会を増やしてみてください。「いつもの生活にちょっとした運動をプラスする」という意識が大切です。
当院では、週に合計140分以上、可能であれば180分以上の運動を2〜3ヶ月間続けることを目標に、患者さんと一緒に計画を立てています。まずはご自身のペースで、心地よいと感じる運動を生活に取り入れてみてください。
Q5: 食事や運動の改善を続けるためのコツはありますか?
A5: 生活習慣を良い方向に変えていくには、モチベーションの維持がとても重要です。いくつかのコツをご紹介します。
小さな目標から始める
最初から大きな目標を立てるのではなく、「今日は一品、減塩レシピに挑戦してみよう」「今週はいつもより10分長く歩いてみよう」のように、達成しやすい小さな目標から始めましょう。達成感を味わうことで、次の行動へのモチベーションにつながります。
記録をつけて可視化する
運動した時間や内容、食べたものをカレンダーや手帳、スマートフォンのアプリなどに記録することで、ご自身の頑張りが見える化され、継続への励みになります。
運動を楽しむ工夫をする
好きな音楽を聴きながらウォーキングをする、友人や家族と一緒に散歩に出かけるなど、運動を「楽しい」と感じる工夫を見つけることも大切です。
家族の協力を得る
ご家族の理解と協力は大きな力になります。一緒に美味しい減塩料理を楽しんだり、散歩に出かけたりするのも良いでしょう。
教育的な情報源を活用する
ある研究では、教育的なビデオを視聴することが食習慣の改善に最も効果的な要因の一つであることが示されています。ただ漠然と取り組むだけでなく、正しい知識を得て、それを実践するための具体的な方法を知ることで、より効果的に継続できるでしょう。
当院では、無理なく続けられる方法を一緒に考え、 皆さまがご自身のペースで高血圧対策に取り組めるよう、全力でサポートいたします。
まとめ
高血圧は自覚症状がなくても血管にダメージを与え、脳卒中や心臓病などの深刻な合併症を引き起こす「サイレントキラー」です。しかし、適切な生活習慣の改善は、高血圧をコントロールし、薬に頼る前に、あるいは薬と並行して治療を進める上で非常に大きな力を持ちます。
塩分を意識した食生活や、「ニコニコペース」と呼ばれる無理のない運動を取り入れることで、血圧の改善が期待できます。効果を実感するまでには少し時間がかかりますが、ご自身の体質やライフスタイルに合わせ、焦らず楽しみながら継続することが大切です。まずは、ぜひ当院にご相談ください。健やかな毎日をサポートいたします。
参考文献
清永 明, 吉川 恵士. 第48回 全日本鍼灸学会学術大会 セミナー 高血圧と運動療法.
橋本壽夫. 食塩 摂取量 と高血 圧の 因果関係 をめ ぐって.
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