脂質異常症と動脈硬化の関係を徹底解説
- HEIWA SOTOMURA

- 1月23日
- 読了時間: 23分
更新日:7 日前
「忙しい人向け|1分要約スライド」
健康診断で「脂質異常症」を指摘され、「自覚症状がないから大丈夫」と後回しにしていませんか?しかし、それは「サイレントキラー(静かなる殺し屋)」の異名を持つ、将来の健康を揺るがす重要な警告サインです。痛みもかゆみもないまま、あなたの血管の中では静かに動脈硬化が進行しているかもしれません。
動脈硬化が引き起こす心筋梗塞や脳梗塞は、日本人の総死亡数の約2割を占めるという事実をご存知でしょうか。健康診断での指摘は、この最悪の事態を防ぐための最後のチャンスとも言えます。この記事では、脂質異常症がなぜ放置してはいけないのか、その恐ろしい仕組みから最新の治療法までを徹底解説します。
脂質異常症と動脈硬化の基本|健康診断で指摘されたらまず知ること
健康診断で「脂質異常症」や「コレステロール値の異常」を指摘され、不安に感じている方も多いのではないでしょうか。
特に自覚症状がないため、「本当に治療が必要なの?」と疑問に思うかもしれません。しかし、脂質異常症は「サイレントキラー(静かなる殺し屋)」とも呼ばれ、静かに動脈硬化を進行させます。
動脈硬化は、心筋梗塞や脳梗塞といった命に関わる病気の最大の原因です。事実、これらの動脈硬化が原因となる疾患は、日本人の総死亡数の約2割を占めています。
したがって、健康診断での指摘は、ご自身の血管の状態を見直すための重要な警告サインです。ここでは、脂質異常症の基本から、なぜ放置してはいけないのかまで、詳しく解説します。
脂質異常症とは?悪玉・善玉コレステロールの役割と違い
脂質異常症とは、血液に含まれる脂質、具体的には「コレステロール」や「中性脂肪」の量が基準値から外れた状態です。これには、以下の3つのタイプがあります。
高LDLコレステロール血症
悪玉コレステロールが多い状態です。
低HDLコレステロール血症
善玉コレステロールが少ない状態です。
高トリグリセライド(中性脂肪)血症
中性脂肪が多い状態です。
「コレステロール」と聞くと悪いイメージがあるかもしれませんが、本来は細胞膜やホルモンの材料となる、体に必要な物質です。コレステロールという物質そのものに善悪はありません。
問題となるのは、血液中のコレステロールの「量」と「バランス」です。コレステロールは血液に溶けないため、「リポ蛋白」という乗り物に乗って全身に運ばれます。この乗り物の種類によって、働きが異なり、通称「善玉」「悪玉」と呼ばれているのです。
脂質の種類 | 通称 | 主な役割と特徴 | 増えたり減ったりすると… |
LDLコレステロール | 悪玉 | 肝臓で作られたコレステロールを全身の細胞に運ぶ「配達役」 | 増えすぎると血管の壁に染み込み、動脈硬化の原因となるプラークの材料になる。 |
HDLコレステロール | 善玉 | 全身で余ったコレステロールを回収して肝臓に戻す「回収役」 | 減ってしまうと、血管の壁にたまったコレステロールを掃除する力が弱まり、動脈硬化が進行しやすくなる。 |
中性脂肪(TG) | - | 体を動かすためのエネルギー源として貯蔵される「予備燃料」 | 増えすぎると善玉(HDL)を減らし、小型で血管壁に入り込みやすい超悪玉(small dense LDL)を増やすため、間接的に動脈硬化を促進する。 |
このように、脂質異常症は単に脂質が多いだけでなく、動脈硬化を防ぐ脂質が少ない状態も含む、血液中の脂質のバランス異常なのです。
健康診断の結果の見方|脂質異常症の診断基準となる数値
健康診断の結果を受け取ったら、「脂質」の項目を確認しましょう。日本動脈硬化学会が定める診断基準は以下の通りです。いずれか一つでも当てはまれば、脂質異常症と診断されます。
【脂質異常症の診断基準(空腹時採血)】
検査項目 | 基準値 | 状態 |
LDLコレステロール(悪玉) | 140mg/dL 以上 | 高LDLコレステロール血症 |
120~139mg/dL | 境界域高LDLコレステロール血症 | |
HDLコレステロール(善玉) | 40mg/dL 未満 | 低HDLコレステロール血症 |
トリグリセライド(中性脂肪) | 150mg/dL 以上 | 高トリグリセライド血症 |
non-HDLコレステロール | 170mg/dL 以上 | 高non-HDLコレステロール血症 |
150~169mg/dL | 境界域高non-HDLコレステロール血症 |
※空腹時とは、10時間以上の絶食を指します。 ※non-HDLコレステロール = 総コレステロール - HDLコレステロール
「境界域」は、すぐに薬物治療が必要とは限りませんが、放置してよいわけではありません。高血圧や糖尿病、喫煙歴など、他の危険因子も考慮して、治療方針を慎重に判断すべき状態です。
また、「non-HDLコレステロール」は、動脈硬化を引き起こす可能性のある、善玉以外のすべてのコレステロールの総量を示します。食後でも値が変動しにくいため、近年リスク評価の指標として重要視されています。
自覚症状がないから放置は危険|動脈硬化が静かに進行する仕組み
脂質異常症が最も怖いのは、自覚症状がまったくない点です。痛みやかゆみがないため、多くの方が問題を先送りにしてしまいます。
しかし、その間にも血管の中では、動脈硬化が着々と進行しています。動脈硬化は、以下のステップで静かに進みます。
コレステロールの侵入
血液中に増えすぎた悪玉(LDL)コレステロールが、血管の一番内側にある壁(内膜)に染み込んでいきます。
プラークの形成
血管の壁に染み込んだコレステロールを異物とみなし、白血球の一種であるマクロファージがこれを食べます。コレステロールを過剰に取り込んだマクロファージは死んでしまい、その死骸などが血管の壁にお粥のようなドロドロした塊(プラーク)を作ります。
血管が狭くなる・硬くなる
プラークがどんどん大きくなると、血液の通り道が狭くなります。また、プラークの蓄積により血管本来のしなやかさが失われ、硬くもろい状態になります。
さらに危険なのは、このプラークが何かのきっかけで破れることです。プラークが破れると、傷を治そうとして血の塊(血栓)ができ、血管を完全に塞いでしまいます。
この血栓が詰まる場所によって、命を脅かす病気が引き起こされます。
心臓の血管(冠動脈)で詰まる:狭心症、心筋梗塞
脳の血管で詰まる:脳梗塞
足の血管で詰まる:閉塞性動脈硬化症
胸の痛みや手足の麻痺といった自覚症状が現れたときには、すでに動脈硬化がかなり進行し、これらの重篤な病気を発症する寸前、あるいは発症してしまっていることも少なくありません。
健康診断での指摘は、こうした最悪の事態を防ぐための最後のチャンスとも言えるのです。
悪玉コレステロール管理の新常識|「低いほど良い」時代の幕開け
健康診断で「悪玉コレステロール値が高い」と指摘されても、自覚症状がないため、どのように受け止めたらよいか戸惑う方も少なくないでしょう。
脂質異常症の治療は、この数十年で大きく進歩しました。かつては「基準値より少し高い程度なら様子見」とされた時代もありました。しかし現在では、多くの大規模な臨床研究により、その考え方は大きく変わっています。
世界の主流となっているのは「悪玉(LDL)コレステロールは、低ければ低いほど心筋梗塞などのリスクを下げられる(lower is better)」という考え方です。
これからの健康のために、ぜひ知っておいていただきたいコレステロール管理の新しい考え方について、詳しく解説していきます。
なぜ悪玉(LDL)コレステロールだけが特に問題視されるのか
血液中の脂質にはいくつか種類がありますが、なかでもLDLコレステロールが特に問題視されるのは、動脈硬化を最も強く進行させる「主犯」だからです。
様々な研究から、動脈硬化によって血管の壁にできた塊(プラーク)の内部には、LDLコレステロールに由来するコレステロールが多く含まれていることがわかっています。
つまり、LDLコレステロールが多い状態が続くほど、血管の壁に動脈硬化の材料がどんどん送り込まれてしまうのです。これが、他の脂質よりもLDLコレステロールの管理が最優先される理由です。
脂質の種類 | 動脈硬化への影響 | 管理の優先度 |
悪玉(LDL)コレステロール | 血管の壁に蓄積し、プラークを形成する「主犯」 | 最も高い。数値を下げることが治療の最大の目標となる。 |
善玉(HDL)コレステロール | 血管の壁から余分なコレステロールを回収する「掃除役」 | 低すぎると問題だが、薬で数値を上げても心筋梗塞などを予防する効果は限定的とされている。 |
中性脂肪(TG) | 直接的な原因ではないが、善玉を減らし、超悪玉(small dense LDL)を増やす「黒幕」 | 高すぎる場合は治療が必要だが、優先度はLDLコレステロールの次となることが多い。 |
このように、動脈硬化の予防では、まずLDLコレステロールの値を厳格に管理することが、心筋梗塞や脳梗塞を防ぐための最も重要な戦略と考えられています。
動脈硬化リスクを左右する「生涯のLDLコレステロール曝露量」という考え方
動脈硬化のリスクを考えるうえで、近年非常に重視されているのが「生涯のLDLコレステロール曝露量」という考え方です。
これは、生まれてから現在までの間に、ご自身の血管が「どれだけ高い濃度のLDLコレステロール」に「どれだけ長い期間」さらされてきたかの総量を意味します。
動脈硬化は、ある日突然起こるわけではありません。血管へのダメージは、まるで借金のように年月をかけて着実に蓄積されていきます。
リスクの決まり方
「LDLコレステロール値の高さ」×「その状態が続いた期間」で決まります。
リスクの蓄積
たとえ軽度の上昇であっても、その状態が10年、20年と続けば、血管へのダメージは着実に積み重なります。
早期対策の重要性
若いうちからLDLコレステロール値を低く保つことで、生涯にわたる曝露量を減らし、将来のリスクを大幅に下げることができます。
この考え方は、自覚症状がないうちから対策を始めるべき理由を明確に示しています。健康診断で「境界域」と指摘された段階は、将来のリスクを減らすための絶好の機会なのです。
一時的な数値の変動に一喜憂いするのではなく、生涯という長期的な視点でコレステロールを管理することが、健康寿命を延ばすための鍵となります。
IMPROVE-IT試験が証明した「確実なLDL-C低下」そのものの重要性
近年の脂質異常症治療の考え方に大きな影響を与えたのが、「IMPROVE-IT」という世界的な大規模臨床試験です。
この研究は、すでに「スタチン」というLDLコレステロールを下げる代表的な薬を飲んでいる心筋梗塞後の患者さん約1万8000人を対象に行われました。
患者さんを2つのグループに分け、一方にはスタチンに加えて「エゼチミブ」という別の作用を持つ薬を、もう一方には偽薬(プラセボ)を追加で服用してもらい、その後の心筋梗塞などの発症率を約7年間追跡しました。
この試験から明らかになった重要な点は以下の通りです。
比較項目 | スタチン単独群 | スタチン+エゼチミブ群 |
平均LDL-C値 | 約70mg/dL | 約54mg/dL |
心血管イベント発症率 | 34.7% | 32.7% |
さらなる低下がリスクを減らす
エゼチミブを追加し、LDLコレステロール値をより低くしたグループは、スタチン単独のグループに比べて、心筋梗塞や脳卒中の発症が有意に少ないことが証明されました。
重要なのは「下げること」そのもの
この結果は、特定の薬の働きだけが重要なのではなく、「どのような方法であれ、LDLコレステロール値を目標まで確実に下げること」自体が、病気の予防に直接つながることを示しました。
このIMPROVE-IT試験の結果は、「LDLコレステロールは低ければ低いほど良い」という考え方を強力に裏付けるものとなりました。
そして、患者さん一人ひとりのリスクに応じて目標値を定め、そこに向けてしっかりと治療を行う「Treat to Target(目標達成を目指す治療)」という戦略の正しさを改めて示したのです。
コレステロール値を改善する具体的な方法|食事・運動・薬物療法
健康診断で脂質異常症を指摘された方がまず取り組むべき治療は、決して特別なものではありません。治療の基本は「食事療法」と「運動療法」という、日々の生活習慣の見直しです。
これらの生活習慣改善を一定期間続けても目標値に達しない場合や、すでに心筋梗塞や狭心症を発症しているなど、もともと動脈硬化のリスクが非常に高い方には、「薬物療法」を組み合わせます。
大切なのは、これらの治療法を適切に組み合わせ、動脈硬化の進行を食い止めることです。それにより、将来起こりうる心筋梗塞や脳梗塞といった、命に関わる病気を予防することが治療の最終目標となります。ご自身の生活に合わせ、無理なく始められることから実践していきましょう。
治療の基本となる食事療法|コレステロールを下げる食べ物と控えるべき食品
食事の見直しは、脂質異常症治療の根幹をなす最も重要なステップです。特にコレステロール値を上げやすい食品を減らし、逆に改善に役立つ食品を積極的に摂ることが大切です。
やみくもな食事制限は長続きしません。まずは以下の表を参考に、毎日の食事で「置き換える」意識を持つことから始めてみてください。
対策 | 具体的なアクションとポイント | 控えるべき食品の例 | 積極的に摂りたい食品の例 |
飽和脂肪酸を減らす | 肉の脂身を取り除く、バターをオリーブオイルに変えるなど、動物性の脂を植物性や魚の油に置き換える。 | 肉の脂身(バラ肉など)、鶏肉の皮、バター、ラード、生クリーム、加工肉(ソーセージなど) | 不飽和脂肪酸 ・青魚(さば、いわし) ・植物油(オリーブオイル) ・ナッツ類 |
トランス脂肪酸を避ける | 洋菓子やスナック菓子、揚げ物の摂取頻度を減らす。原材料表示の「マーガリン」「ショートニング」をチェックする。 | マーガリン、ショートニング、菓子パン、ケーキ、ドーナツ、スナック菓子 | - |
コレステロール摂取を意識する | かつてほど厳格な制限は不要とされていますが、極端な摂りすぎには注意が必要です。 | 鶏卵の黄身、魚卵(いくら、たらこ)、レバーなどの内臓類 | - |
食物繊維を増やす | 主食を白米から玄米や麦ご飯に変える、野菜やきのこ、海藻の入った汁物を毎食加えるなどの工夫が効果的。 | - | 水溶性食物繊維 ・野菜(ごぼう、オクラ) ・海藻類(わかめ) ・きのこ類 ・大豆製品、玄米、オートミール |
特に注目したいのは、野菜や海藻類に豊富な「水溶性食物繊維」です。これは、腸内でコレステロールの吸収をブロックし、体外への排出を助ける働きがあります。また、青魚に含まれるDHAやEPAは中性脂肪を減らす効果が知られています。
無理なく治療を続ける工夫|外食やコンビニ食の上手な選び方
仕事が多忙で自炊が難しい方でも、食事療法は実践できます。外食やコンビニ食を利用する際は、メニューの「選び方」と「組み合わせ方」を意識することが重要です。
以下のチェックリストを参考に、賢い選択を心がけましょう。
【外食・コンビニ食選びのチェックリスト】
丼ものや麺類より「定食スタイル」を選ぶ
主食・主菜・副菜が揃い、栄養バランスが整いやすくなります。
「揚げる」より「焼く・蒸す・煮る」を選ぶ
同じ肉や魚でも、調理法で脂質の量は大きく変わります。焼き魚定食や蒸し鶏のサラダなどがおすすめです。
野菜や海藻の小鉢を必ず一品追加する
食物繊維を補うために、ほうれん草のおひたしや、わかめの酢の物などをプラスしましょう。
ラーメンやパスタの汁・ソースは残す
塩分や脂質が多く含まれています。全て摂取するのは避けましょう。
コンビニでは「単品」でなく「組み合わせ」で買う
菓子パンやカップ麺で済ませず、「おにぎり+サラダチキン+野菜スープ+ゆで卵」のように、栄養バランスを考えて組み合わせましょう。
完璧を目指す必要はありません。「週の半分は定食にする」「揚げ物は週2回まで」など、ご自身の生活で実現可能な目標を立てることが、治療を長く続けるための秘訣です。
忙しい人でも続けられる運動療法|効果的な種類・時間・頻度
運動には、中性脂肪を減らし、善玉(HDL)コレステロールを増やす優れた効果があります。特別な時間を確保しなくても、日常生活の中で身体を動かす意識を持つことが第一歩です。
目標は「ややきついと感じる程度の有酸素運動を、1日合計30分以上、できれば毎日」です。この「合計30分」は、10分間の運動を3回に分けても構いません。
【日常生活で運動量を増やす工夫】
移動を運動に変える
エレベーターを階段にする。
一駅手前で降りて歩く。
歩くときは大股で早歩きを意識する。
すきま時間を活用する
テレビを見ながらその場で足踏みをする。
歯磨きをしながらかかとの上げ下ろしをする。
週末にまとめてもOK
サイクリングや水泳、軽いジョギングなど、楽しみながら続けられる運動を見つける。
運動は肥満の解消だけでなく、血圧や血糖値の改善にもつながります。まずは「今より10分多く体を動かす」ことを目標に始めてみましょう。ただし、心臓に持病がある方などは、必ず事前に主治医に相談してください。
薬物療法はいつから必要?スタチンなど治療薬の種類と副作用
食事や運動療法を3〜6ヶ月続けても目標値に達しない場合や、すでに動脈硬化による病気を発症している方には、薬物療法を検討します。薬は動脈硬化の進行を強力に抑え、将来のリスクを減らすための重要な一手です。
現在、脂質異常症治療の中心となるのが「スタチン」です。IMPROVE-IT試験では、スタチンに別の薬を上乗せしてLDLコレステロールをさらに下げた結果、心筋梗塞などの発症がより抑制されることが証明されました。これは「LDLコレステロールは、確実に目標値まで下げることが重要」という考え方を裏付けています。
薬の種類 | 主な働きと特徴 |
スタチン (HMG-CoA還元酵素阻害薬) | 肝臓でのコレステロール合成を抑えます。LDLコレステロールを強力に下げる効果があり、治療の第一選択薬です。 |
小腸コレステロール トランスポーター阻害薬 | 小腸でのコレステロール吸収をピンポイントで阻害します。スタチンと併用することで、さらに強力な効果が期待できます。 |
フィブラート系薬 | 主に中性脂肪(トリグリセライド)を下げる効果が高い薬です。善玉(HDL)コレステロールを増やす作用も持ちます。 |
EPA・DHA製剤 | 青魚の油の成分から作られた薬です。中性脂肪を下げ、血液を固まりにくくする作用が期待されます。 |
薬の副作用として筋肉痛や肝機能障害などが挙げられますが、頻度は高くありません。定期的な血液検査で安全性を確認しながら治療を進めますので、ご安心ください。気になる症状があれば、自己判断で中断せず、必ず主治医に相談することが最も大切です。
治療の常識を変える新薬「PCSK9阻害薬」
近年の脂質異常症治療における最大の進歩の一つが、「PCSK9阻害薬」の登場です。この薬は、これまでの治療で効果が不十分だった方々に、新たな希望をもたらしました。
PCSK9とは、血液中のLDLコレステロールを肝臓に取り込む「受け皿(LDL受容体)」を壊してしまうタンパク質です。PCSK9阻害薬は、このPCSK9の働きを強力にブロックします。
その結果、受け皿が壊されずに肝臓の表面で働き続けるため、血液中のLDLコレステロールがどんどん肝臓へ回収され、数値が劇的に低下するのです。
この薬は、特に遺伝的にコレステロールが著しく高い「家族性高コレステロール血症」の方や、スタチンを最大量使っても目標値に届かないハイリスクな方にとって、非常に強力な選択肢となります。
大規模臨床試験(FOURIER試験)では、心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクをさらに低下させる効果も証明されました。2〜4週間に1回の自己注射薬であり、まさに「LDLコレステロールを医療の力で自由にコントロールできる時代」の到来を象徴する薬と言えます。
将来の不安を解消し専門家と歩む治療計画
健康診断で脂質異常症を指摘されると、多くの方が将来への漠然とした不安を感じます。自覚症状が何もないのに、「心筋梗梗塞」や「脳梗塞」といった重い病気の名前を出されると、戸惑うのは当然のことです。
しかし、その指摘はご自身の体と向き合い、健康な未来を守るための大切なきっかけです。脂質異常症は、適切な治療計画を立てて実践すれば、決して怖い病気ではありません。
一人で悩みを抱え込まず、専門家である医師と一緒に、あなたに合った治療計画を立てていきましょう。ここでは、治療に関する具体的な疑問や不安にお答えします。

脂質異常症の治療で心筋梗梗塞や脳梗塞は予防できるのか
結論から申し上げますと、適切な治療によって心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクは大幅に下げることができ、十分に予防は可能です。
脂質異常症の治療は、これらの病気の根本原因である「動脈硬化」の進行に直接働きかけます。治療には、主に2つの重要な目的があります。
動脈硬化の進行を止める(新たなプラークを作らせない)
食事や運動、薬物療法で血液中の悪玉(LDL)コレステロールを減らします。これにより、血管の壁にコレステロールが新たに蓄積するのを防ぎ、動脈硬化の進行にブレーキをかけます。
今あるプラークを安定させる(破裂させない)
血管の壁にできてしまったプラークは、治療によって小さくしたり、性質を変えたりすることができます。LDLコレステロール値をしっかり下げることで、柔らかく破れやすい不安定なプラークが、硬く安定した状態に変化します。これにより、突然プラークが破れて血栓ができるリスクを大きく減らせるのです。
早期に治療を開始し、継続的にコレステロール値を管理することが、将来の健康を守るための最も確実な方法と言えます。
治療はいつまで続く?薬をやめられる可能性と目標設定
脂質異常症は、高血圧などと同じく生活習慣と深く関わるため、基本的には長く付き合っていく必要があります。治療期間は、患者さん一人ひとりの状態によって異なります。
薬物療法を始めた場合でも、「一生やめられない」と決まっているわけではありません。
生活習慣の劇的な改善
食事療法や運動療法を真摯に続け、大幅な減量に成功した場合など。
目標値の安定的な維持
薬がなくても、血液検査の数値が目標範囲内で安定して維持できるようになった場合。
これらのケースでは、医師の慎重な判断のもとで薬を減らしたり、中止したりすることが可能です。ただし、自己判断での中断は絶対に避けてください。数値が再び悪化し、静かに動脈硬化が進行してしまう危険があります。
治療継続のモチベーションとなるのが、具体的な目標設定です。目標となるLDLコレステロール値は、その方が持つ他のリスクによって変わります。
リスク区分 | 主な対象者 | LDLコレステロールの管理目標値 |
低リスク | 他に危険因子がない健康な方 | 160mg/dL未満 |
中リスク | 高血圧、糖尿病、喫煙などの危険因子が複数ある方 | 140mg/dL未満 |
高リスク(一次予防) | 糖尿病、慢性腎臓病、足の動脈硬化などがある方 | 120mg/dL未満 |
高リスク(二次予防) | 心筋梗塞や脳梗塞の既往がある方 家族性高コレステロール血症の方 | 100mg/dL未満 (より厳しい70mg/dL未満を目指すことも多い) |
定期的な検査で目標達成度を確認しながら、医師と一緒に根気強く治療を続けていきましょう。
脂質異常症は何科を受診すべき?内科での専門的な検査
健康診断で脂質異常症を指摘されたら、まずはかかりつけの内科、またはお近くの内科・循環器内科クリニックを受診してください。
特に、以下に当てはまる方は早めの受診をお勧めします。
【受診を検討すべきチェックリスト】
健康診断で「要精密検査」「要治療」と判定された
LDLコレステロールが140mg/dL以上だった
家族(親や兄弟)に心筋梗塞や狭心症になった人がいる
すでに高血圧や糖尿病の治療を受けている
喫煙習慣がある
クリニックでは、血液検査で脂質の値を詳しく調べるだけでなく、動脈硬化の進行度を評価するための専門的な検査を行うことがあります。これらの検査は体に負担がなく、痛みもありません。
検査の種類 | どのような検査か? | この検査でわかること |
頸動脈エコー検査 | 首の血管(頸動脈)に超音波をあてて、血管の断面をモニターに映し出します。 | 血管の壁の厚さやプラークの有無を直接観察できます。全身の動脈硬化の進み具合を評価する重要な指標となります。 |
心電図検査 | 胸や手足に電極をつけ、心臓が動く際の微弱な電気信号を記録します。 | 動脈硬化によって心臓に負担がかかっていないか、狭心症や不整脈の兆候がないかなどを確認します。 |
これらの検査で目に見えない血管の状態を「見える化」することで、より個人に合った的確な治療方針を立てることができます。
医師と納得して治療を進めるために|知っておきたい質問のポイント
脂質異常症の治療は長期間にわたるため、ご自身が納得して主体的に取り組むことが何よりも大切です。そのためには、医師との良好なコミュニケーションが欠かせません。
診察の際に疑問や不安を解消できるよう、聞きたいことを事前にメモしておくとスムーズです。
【診察時に確認したい質問リストの例】
自分の状態について
「私の今の数値は、同年代の人と比べてどのくらい悪いですか?」
「今のままだと、10年後に心筋梗塞などを起こす危険性はどのくらいありますか?」
「動脈硬化の検査結果から、私の血管年齢は何歳くらいと考えられますか?」
治療の方針について
「私の治療目標となるLDLコレステロール値は、具体的にいくつですか?」
「なぜ私には、食事や運動だけでなく薬が必要なのでしょうか?」
薬について
「この薬の主な効果と、注意すべき副作用について教えてください」
「薬はいつまで続ける必要がありますか?将来やめられる可能性はありますか?」
生活習慣について
「食事で特に気をつけるべき食品は何ですか?」
「私におすすめの運動の種類や頻度はありますか?」
また、ご自身の状態を正確に伝えることも重要です。以下の情報は、診察時に医師にお伝えください。
服用中の他の薬や健康食品、サプリメント
喫煙や飲酒の習慣と量
家族の病歴(特に心筋梗塞、脳梗塞、高コレステロール血症)
治療に対するご自身の考えや、不安に感じていること
医師と患者さんが同じ目標に向かう「チーム」として、二人三脚で治療を進めていくことが、将来の健康を守るための最も確実な道筋です。
脂質異常症と動脈硬化Q&A
脂質異常症や動脈硬化について、診察室で患者さんからよくいただくご質問に、Q&A形式でお答えします。
Q1. 「高脂血症」から「脂質異常症」に名前が変わったのはなぜですか?
以前は「高脂血症」と呼ばれていましたが、現在は「脂質異常症」という名称が正式に使われています。
これは、動脈硬化のリスクは、単に脂質が多いことだけが問題ではないためです。動脈硬化を防ぐ働きのある善玉(HDL)コレステロールが「低い」状態も、同様に重要な危険因子とわかってきました。
以前の呼び方 | 現在の呼び方 | 対象となる状態 |
高脂血症 | 脂質異常症 | ・悪玉(LDL)コレステロールが高い ・中性脂肪が高い ・善玉(HDL)コレステロールが低い |
このように、「高い」だけでなく「低い」異常も含む、より正確な病態を示すために「脂質異常症」という名称に変更されたのです。
Q2. 自覚症状が全くないのに、なぜ急いで治療を始める必要があるのですか?
脂質異常症の最も怖い点は、自覚症状がないまま静かに動脈硬化を進行させることです。
症状がないからと放置している間にも、血管の壁にはコレステロールが着実に蓄積していきます。そして、胸の痛みや手足の麻痺といった症状が現れた時には、すでに心筋梗塞や脳梗塞を発症していることも少なくありません。
症状が出てからでは手遅れになる前に、将来の重大な病気を予防することが治療の最大の目的です。健康診断での指摘は、そのための最後の警告サインと捉えることが大切です。
Q3. 悪玉コレステロールは、低ければ低いほど良いのですか?
悪玉(LDL)コレステロールに関しては、動脈硬化を防ぐ観点からは「低い方が望ましい」と考えられています。
しかし、極端に低い場合は栄養状態の問題や、がんなどの他の病気が隠れている可能性も考慮する必要があります。
また、善玉(HDL)コレステロールも「高ければ高いほど良い」とは限りません。近年の研究では、極端に高すぎる(80~100mg/dL以上)場合、逆に動脈硬化のリスクになる可能性も指摘されています。大切なのは、適切な範囲でバランスを保つことです。
Q4. 薬を飲み始めたら、もう一生やめられないのでしょうか?
必ずしも一生飲み続けるわけではありません。薬物療法と並行して食事や運動などの生活習慣を改善し、コレステロール値が目標値まで下がって安定すれば、医師の判断で薬を減らしたり、中止したりできる可能性は十分にあります。
ただし、自己判断で中断するのは大変危険です。中断によって数値が再び悪化し、動脈硬化が進行してしまう恐れがあります。薬の変更や中止については、必ず主治医に相談してください。
Q5. 健康診断の「境界域」という判定は、どう考えればよいですか?
「境界域」は、「まだ大丈夫」というサインではなく、「注意深く対応すべき」という警告です。
LDLコレステロール値と動脈硬化のリスクの関係は、一直線につながっています。また、高血圧や糖尿病、喫煙など、他の危険因子が重なるほどリスクは掛け算で増えていきます。
この「境界域」は、そうした他の危険因子がないか慎重に評価し、早期の対策を検討すべき段階として設定されています。特に糖尿病などがある方は、境界域でも治療が必要な場合があります。将来のリスクを減らすための、生活を見直す良い機会と捉えましょう。
まとめ
今回は、脂質異常症と動脈硬化の密接な関係、そしてその治療法について詳しく解説しました。
脂質異常症には自覚症状がほとんどありません。そのため、健康診断で数値を指摘されても「まだ大丈夫だろう」とつい後回しにしてしまいがちです。しかし、その間にも動脈硬化は静かに進行し、心筋梗塞や脳梗塞といった命に関わる病気のリスクを高めています。
大切なのは、健康診断での指摘を「将来の健康を守るための重要なサイン」と捉えることです。食事や運動といった生活習慣の見直し、そして必要に応じた薬物療法によって、動脈硬化の進行は食い止められます。一人で悩まず、まずはかかりつけ医に相談し、ご自身の状態を正しく把握することから始めてみませんか。
































